特集
笑い飯 哲夫さんと考える子どもの教育と未来
2023年3月17日
学力を定着させるための通塾や習い事にかかる費用は年々増加傾向にあり、家計に占める割合も大きくなっています。それゆえ、塾通い等を諦める子どもたちも少なくないといいます。このように経済的な理由によって、子どもの学びの環境や学習機会が失われることに課題を感じ、低額で通える学習塾を経営されている、笑い飯の哲夫さん。塾で取り組まれていること、子どもたちの未来や理想とする教育、子どもたちへの想いについてお伺いしました。
笑い飯
哲夫さん
《Profile》
奈良県桜井市出身、吉本興業所属。奈良県立奈良高等学校卒業後、関西学院大学文学部哲学科へ進学。卒業後はお笑いの道へ。2000年7月、西田幸治さんと「笑い飯」を結成し、「M-1グランプリ2010」優勝、第49回「上方漫才大賞」大賞など受賞歴多数。現在、相愛大学人文学部客員教授を務め、奈良国立博物館文化大使や奈良県桜井市広報大使にも任命されている。
子どもたちにはめっちゃ可能性があるっていうのを見せてあげたい
ーー料金が低額の塾『寺子屋こやや』を始められたきっかけを教えてください。
哲夫さん）僕が子どもの時に通ってたおばあちゃんが教えてくれる塾なんですけど、そこの月謝は三千円だったんですよ。おやつタイムもあってね（笑）すごく良かったなぁと、そういう塾をやりたいなってずっと思っていて。そんな時に、知り合いから大手塾の月謝を聞いた時に目ん玉飛び出たんですよ。えらい高いな〜と思って。これ大金持ちしか行かれへんやん！って。これやと偏差値も大金持ちの子どもたちが高くなって、世襲制的になってまうと。それは僕はあんまり好きじゃないなって思ってるんです。いろんな子どもたちにめっちゃ可能性がある、いろんな未来が拓かれているっていうのを見せたくて。お金持ってる、持ってないで引き離される子どもたちを作りたくなかったんですよね。それに自分自身も学校以外で補習としておばあちゃんに教えてもらっていたというのがいい思い出だったので。近所のおっちゃんが勉強を教えてくれてるみたい な場所を作りたかったんです。
ーー『寺子屋』という名前も
とてもいいですよね！
哲夫さん）えーでしょ！バリバリ授業せーへんねんやろなって思うでしょ（笑）うちの塾は授業をしていなくて、子どもたちに勉強の「仕方」を教えてあげるんです。わからんところあったら聞いてきてなというようなシステム。夕方の5時から9時の間に来て、帳面広げて、ドリル広げて、みんな自由にやってますね。教えてくれてるんも売れる手前の芸人やったりするんで、子どもたちはよりおもしろく教えてもらえるし、芸人たちにしてみても、子どもっていう一番伝わりにくい客に対してあれこれ話術を変えたり、単語を選び出したりっていう練習になるんですよね。お互いWin-Winの関係やと思います。子どもたちは勉強の仕方が段々分かってきて、自主性や主体性が養われてくると、この分野おもしろいなとか、この解き方パズルみたいで楽しいなとか自分でわかるようになってきます。
地域で子どもを育てる
古き良き教育をもう一度
ーー教育の機会は全ての子どもたちに平等であってほしいですが、それには格差がある状態だと言われています。
哲夫さん）地域教育がままならなくなったのも一つ要因かなと僕は思っていて。近所のよく怒るおっちゃんとかが今はいなくなってしまったじゃないですか。人間関係が希薄になっちゃっているというか。僕が小さいときは植木鉢割ったりしたら近所でものすごく怒ってくれるおっちゃんがいたりとか、地域で教育できてたなって思うんですよ。僕はその古き良き時代の教育をもう一回やりたいなと思ってるんで。親も学校の先生も忙しいし、子どもたちを地域みんなで育むというのが日本の常だったと思うんですよね。だからそれを大事にしておきたいなぁって。ほったらかすと「格差」って出てくるんですよね。どの世代でも学力の差は絶対出てくるんですけど、その差の幅の広がりは小さい方がいいんで、学力の底上げは必要なんです。お互い啓発し合うべきや と思ってるんで。偏差値高い子はそのまま、偏差値30の子もずっとそのままだと混じり合うこともないんでね。誰もが偏差値50にも70にもなれるみたいなのがえーなって思いますね。自分の得意分野っていうのも見つけやすくなるでしょうしね。
ーー家と学校だけではない子どもへの
教育の場所が必要だと。
哲夫さん）社会全体での役割分担ですよね。昔は親や先生も忙しいってなった時に、近所のおっちゃんがしつけとかもしてくれてたんですよ。それがお寺のお坊さんであったり、いろんな役割分担があったと思うんですけど、その役割を僕らも担えたらなって。学校になかなか行きにくいなって思ってる子たちや不登校の子らが塾を居場所にしてくれていたりとかも今までにありました。学校で何かあったなって思う生徒には「どうしたんや」って話聞いてあげたりね。生徒をラーメン屋に食べに連れて行ったりとかありましたよ。ラーメンはえぇですよ！『北の国から』でもそうですけどね、人の心を温める力がありますよね（笑）
ーー塾を通しての地域づくりも
考えられているのでしょうか。
哲夫さん）昔のような地域づくりができればと。子どもの安全とかもご近所さんが目を光らしてくれてるとか、気軽に「おはよう」、「こんにちは」ってあいさつしたりね。やっぱり子どもはいろんな種類の人と接する方がいいですよ。育みの機会でいうとね。この人はいつもあいさつしてくれてるなぁとか、この人とは会話続かんなぁとか子どもながらにいろんなこと学んでいきますからね。いろんな大人たちが子どものことを思いやる雰囲気だと子どもたちもすくすく成長するんじゃないですかね。いいですよね、そういう環境って。
大人が子どもを賢くしてあげるのをサボったらあかん
哲夫さん）僕は将来の野望があるんですよ。自分が生きているうちは無理かもしれないですけど、子どもたちを世代全体的に賢く育ててあげて、その子どもたちが大人になったときにそのまた下の世代の子どもたちを賢く育ててあげて、レベルを向上させていく。それは何のためかというと結局は自分のためであり、地球のためなんですよ。例えば、僕は温暖化の問題に関心を持っているんですけど、このまま気温が上昇していって、気候変動が増えたりするのかなと地球の課題を感じていて。子どもたちをより賢くしてあげて、いろんなことを考えらえる想像力豊かに育ててあげて、僕が80歳くらいになった時に地球を冷ましてくれる装置を誰か作ってくれへんかなって（笑）今直面してる地球の問題を解決してくれる子どもたち世代を育てていかなあかんなって思ってるんで、自分がサボってる場合じゃないんですよね。
ーー大人の考え方や接し方は子どもたちの生き方にも影響を与えていそうですね。
哲夫さん）僕の経験がそうでしたからね。あの時のこと考えてみたら、先生こう考えて言うてくれてたんやとか、やってくれてたんやとか。小学校の時にねグラウンドでサッカーしたら、低学年の子にボール当たるからサッカー禁止って言われてね、僕は先生にめちゃくちゃ文句言いに行ったんですよ。でもあるとき、小さいコートとゴールができていて。聞いたら「お前が文句言うてた先生が作ってくれたんやぞ」って。いろんな思いを尊重してくれて、指導してくれて、導いてくれてはったなとか今やから思えたりして。そんないい思い出がよーさんあるんですよ。だから僕もえぇ先生ぶりたいんですよね(笑)そういう想いを今の子どもたちにも受け継いでもらいたいなって思いますね。
哲夫さんの経営する塾
『寺子屋こやや』
大阪市淀川区にある小学3年生から中学3年生までを対象とした補習塾。 勉強を習慣づけ、「学びを楽しいもの」と感じられるような仕掛けで、子どもたちの意欲を伸ばし、自主的に学びが身につくような環境を整えている。
「笑い飯」
インフォメーション
定 価：1,400円＋税
発行：ヨシモトブックス
発売：株式会社ワニブックス
『ブッダの一生~カネも妻も子も手放して仏教をつくったスゴい人~』
著者:笑い飯 哲夫
装画・挿入画:和田ラヂヲ
生誕から入滅まで、ブッダの生涯をユーモアたっぷりに描いた入門書！恨み、嫉妬、ねたみ、煩悩、邪念、雑念、殺意、慈悲…2500年前の人たちも、今と同じようにみんな悩んでいた!母の脇から生まれ、贅沢三昧で育ち、妻と子を手放して出家、6年間もの苦行の果てに「なんか違った」と言って辞め、結婚式を迎えた弟を出家させ、富豪や王の寄進で教団施設をバンバン作る…そんなものすごい人、ブッダ。超人にして偉人・変人なお釈迦さまの生涯を、芸能界No.1の仏教通、哲夫
がわかりやすく紹介します。
『笑い飯の漫才天国～結成20＋1周年記念ツアー～DVD』
2020年7月に結成20周年を迎えた笑い飯が、さらに漫才の高みを目指すために2021年7月より全国12か所で開催した「笑い飯の漫才天国～結成20＋1周年記念ツアー」より大阪公演と東京追加公演を映像化！撮りおろし企画では、笑い飯が浅草・東洋館の寄席に初出演する日に密着。さらに、東京を代表する漫才師・ナイツとの対談がついに実現！笑い飯×ナイツが繰り広げる熱い漫才談義をぜひお見逃しなく。
定価：4,180円（税込）
株式会社よしもとミュージック