特集
子どもの生きる力を養うICT活用教育
2020年9月3日
※本特集では換気、手指消毒など感染予防を施し取材しています。
《教えてくれたのは》
右)奈良県立教育研究所 所長 大石健一さん
左)奈良県立教育研究所 教育情報化推進部 主幹 小﨑誠二さん
奈良県立教育研究所
幼少中高の教員向けにさまざまな講座を立ち上げ、ICT活用などの新しい教育に向けて先生方をサポートしている。
住所:奈良県磯城郡田原本町秦庄22-1
電話:0744-33-8900
HP:http://www.e-net.nara.jp/kenkyo/
今やインフラとして
必要不可欠なインターネット
「インターネットなしで現代の生活は成り立ちません。世界の子どもは、生活や遊び、授業の中でインターネットを活用しているのに、日本はゲームでしか使えていない。教育での活用は、残念ながら世界の中でも最低レベルです」と語るのは、奈良県立教育研究所 教育情報化推進部主幹 小﨑誠二さん。この結果には、少なからずショックを受ける人も多いだろう。「読み書きそろばん」の必要性は、多くの先生方が認めてきたこと。「海外では、そろばんに変わるパソコンをいち早く導入したが、日本では、教師の質が高いゆえに道具の部分を後回しにしてしまった」。教師が授業だけでなく、生徒指導や家庭環境、部活動まで目を行き届かせている教育スタイルは日本独自のもの。日本全国どの小学校に入学しても、同じレベルの授業を受けられるのは日本の強みだ。その質の高さを残しながら、さらに教育内容を充実させるには、ICTの導入が必要不可欠である。
奈良県立教育研究所の大石健一所長は「これまでICT活用教育の導入が進まなかった理由は、緊急性をあまり感じなかったから」と話す。明治に学校制度が導入されてから今日まで、黒板とチョークを使った授業というスタイルで特段の不都合がなかったのだ。昨年12月に文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想」がスタートしたが、新型コロナウイルスによる学校の臨時休業に伴い、いっきに優先度が高まった。今では1人1台の端末が揃うことになり、次は教育内容という段階まできている。まずは通常の授業の中で端末を導入し、登校できない状況が生まれても、ICTを使って学びを止めないようにしていくというのが当面の目標だ。
県域で導入した
クラウドプラットフォーム
奈良県内の国公立学校が同一ドメインで「G Suite for Education」を利用できる環境を整え、児童や生徒に1人1つのアカウントを付与したことが注目を集めている。これは日本初の取組で、県内のすべての教職員と児童・生徒が共通のクラウドプラットフォームで学ぶ環境が整い、GIGAスクール構想の実現が県域でできることになるという。学歴はデータ化され、小・中・高校へとスムーズに引き継がれる。アカウントは子どもまたは保護者が自分で管理するという発想になる。
ポイントは、どの学校もみな同じ環境で、できることから始められること。例えば、山間部の学校では、先生と生徒が1対1で授業を行っているケースもあるので、遠隔授業で可能性を拡げることもできる。企業とタイアップしたリモート授業で最先端の技術を学ぶこともできる。臨時休業時の対応や不登校のお子さんの学びを保障することにもつながる。「このようにICT環境を有効活用しようという意識は高まった」と大石所長は言う。
現場の先生と
ICT活用の共存がカギ
現場の先生は、対面授業を大切にしながらICTの活用や遠隔授業のノウハウを身に付けていく段階にある。授業のための動画を作る際に、教えるのが上手な先生の動画より、子どもたちは担任の先生が出てくれるほうがうれしいという声があったという。「そういう感覚は大事にしたい」と大石所長。毎日、子どもたちの様子を見守っている先生の存在と幅広いコンテンツを使える教育の情報化とが共存していくことで、さらに豊かな教育を受けることができるようになるはず。「新しいことを楽しむ」というスタンスでICT活用に取り組む奈良県の今後に期待したい。