特集
免疫学の先生に聞く!「免疫」とはナニモノ?!
2020年12月20日
「柿渋( 柿タンニン) が新型コロナウイルスの不活性化に効果あり!」で話題の免疫学の第一人者、奈良県立医科大学 伊藤教授に教えてもらいました!
※本特集では換気、手指消毒など感染予防を施し取材しています。
《教えてくれたのは》
奈良県立医科大学 免疫学講座
伊藤利洋 教授
1974年生まれ。自身が中学生の頃にアトピー性皮膚炎に悩まされ、病院を転々としていく中で、出会った主治医に「アレルギーや免疫のことは分からない事ばかり。
医学部で免疫を勉強し、アトピー性皮膚炎の辛さを知る体験者として患者さんを助けることができる医師を目指してはどうか」と言われたことがきっかけで、医学部を目指す。
現在、大学にて免疫学の教育ならびに研究を行っている。
そもそも免疫って何?
私たちの身体は常日頃、ウイルスや細菌にさらされている状態です。ウイルスや細菌といった敵から自分の身体を守り、身体の中に入ってきたら病気にかからないように戦って防御する。それが「免疫」の基本で、動物にも植物にも免疫は存在します。
まだまだ分からないことが多い免疫ですが、病気にかからないように、また、病気にかかってもすぐに治すために私たちの身体に無くてはならないものです。
私たちの身体にある免疫の主人公は、血液中の白血球たちで、身体の中を駆け巡りパトロールしています。
局所免疫
口、鼻、肺、腸、皮膚など外界と接触するところにある免疫が局所免疫です。粘液の中にさまざまな抗菌物質があり、まずそこに付着したウイルスや細菌を体の外に出します。
(例えば、鼻に入ると鼻水、肺に入ると痰、おなかに入ると下痢という形で、局所免疫はウイルスや菌を身体から外に出そうとする。)
自然免疫
ウイルスや細菌が体内に侵入すると、真っ先に特攻隊として駆けつけるのが、血液中の白血球(免疫細胞)のうち自然免疫を担当する好中球やマクロファージたち。戦いながら、敵(ウイルス・細菌)の情報を獲得免疫の司令塔であるヘルパーT細胞にも伝えます。
獲得免疫
獲得免疫の白血球(免疫細胞)は一度病気にかかると、敵の情報を記憶します。そして、同じウイルスや細菌が体内に入ると、素早く対抗できる免疫(抗体)などで効果的にウイルスと細菌をやっつけます。その特性を生かしたのがワクチンです。弱毒・無毒化したウイルスや細菌成分を注射して、免疫に記憶させ、生体内に入ってきたらすぐに抗体などで対応できるのです。
自然免疫と獲得免疫の白血球(免疫細胞)は、それぞれの専門性を活かしてワンチームとして敵と戦います。誰が欠けてもいけないのです。
熱を出すのは
身体からの「SOS」!
感染症の時に熱が出るのはウイルスや細菌に負けないように、免疫細胞がいつも以上に頑張って戦っている証。また、身体が元気だと動き回れてしまい、周囲の人にうつしてしまうので、熱は身体を休めてねという免疫からのメッセージでもあるのです。
「敵が来たぞ、戦えー!」「敵が強いので応援求む」と免疫細胞同士が、サイトカインというタンパク質をとおして常に情報交換し、ウイルスや細菌と戦っています。そのため、発熱したからといって安易に解熱剤を使わないほうが良いですが、体温が39℃や40℃を超えてくると、逆に体力を消耗しすぎて戦えないため、その場合は使用したほうが良いでしょう。
身体の中に最も多く
免疫細胞がある場所は?
それは腸です。免疫細胞の60-70%が腸にあります。
腸の中では腸液という抗菌物質を含む川が流れており、その中にたくさんの腸内細菌が居て、善玉菌と悪玉菌が共存しています。善玉菌は悪玉菌の増殖や侵入を防いで感染を予防したり、有害な物質を体外へ排出する手助けをしています。一方、悪玉菌が腸の細胞に侵入してくると免疫細胞がやっつけます。さらに善玉菌の出す物質は免疫細胞に良い影響を与えることが分かってきています。
私たちが食事をするのは、いわば腸内細菌にエサを与えているようなもの。良いエサを与えたら善玉菌が元気になりますが、添加物や偏った食事では元気がなくなり、悪玉菌が増えてしまいます。元気な善玉菌を作ることは健康にもつながります。つまり、食生活はとても大事。免疫にも深く関係しているのです。
アレルギーって何?
免疫の暴走です。免疫が身体にとって敵か味方かを見極めるのに、誤って敵とみなしてしまい過剰反応してしまうことです。
埃や花粉を敵とみなして鼻水やクシャミなど身体が反応する。また、小麦、卵、乳製品など食べたものを敵とみなして、皮膚が赤くなったり痒くなったりする。それはすべて免疫の過剰反応なのです。
妊婦さんはアレルギーの原因となる食べ物を避けたほうが良いという説もありましたが、研究結果から小麦や乳製品など特定の食物を避けることは推奨されていません。また、離乳食でもアレルギーの原因となる食物を避ける傾向がありますが、免疫細胞が適切に無害か有害かを判断できるようになるためには、小さい頃から摂取してしっかり身体に敵ではないと認識させることも重要です(ただし、食物アレルギーの妊婦さん・お子さんは、主治医の先生の指示に従って食事を進めてください)。
アレルギー性疾患は先進国、特に都市部に多いと言われており、日本も右肩上がりに増えています。生活様式の変化や、ウイルス・細菌と触れる機会の減少による免疫の鍛錬不足も原因の一つでは?と考えられています。生後から動物たちが常にいる環境で育った子どもたちの方がアレルギーが少ないという報告もあり、アレルギーは遺伝的なものよりも環境的な要因が大きいと考えられています。
病気に負けない身体のために、
免疫を強くするには?
一番大切なのは常日頃からの規則正しい生活です。早寝早起き、栄養のあるバランスの良い食事を摂る、ストレスを溜めない。そして、笑うことも大事。
栄養や食事には気を付けているのに、子どもが夜遅くまで起きていると、バランスが良いとは言えません。逆のことをしていますよね。規則正しい生活、好き嫌いせずバランスの良い食事により、免疫の機能が効果的に働きます。色々な種類がある免疫細胞にはバランスが重要です。そのバランスが崩れると身体にダメージをきたします。免疫細胞それぞれが的確に役割を果たしながら、ワンチームでウイルスや細菌と戦えることが大切です。
免疫は身体のために戦いますが、情報を間違うと自分の体に悪影響が及びます。例えば、アレルギー以外にも関節の細胞を敵とみなして攻撃するのが関節リウマチ。一方、細胞を新しく作るときにミスが起こり、そのミスでできてしまったがん細胞を免疫が見逃してしまうと「がん」になってしまう。ストレスは免疫力を低下させ、がんの原因とも言われています。間違った免疫の反応や免疫力の低下から病気になるのです。一方、笑いは免疫力を高めることが分かってきています。つまり、免疫に敵と味方の情報を正しく認識させて効果的に働いてもらうためには、我々は規則正しく、ストレスを溜めない生活を軸に、バランスの良い食事を摂ることが大切です。