特集
【玉井式教育学V】– Vol.36 – 「世界を知る、社会を知る」ことの大切さ
2022年3月25日
これからの子どもたちは、これまでよりも世界に目を向けなければいけない時代を生きることになります。今のままの教育で良いのか、変わっていかなければいけない点は何なのか。グローバル時代を生きる子どもたちの成長のために、どのような価値観が必要なのでしょうか。
何のために教育するのかという、教育の価値観をしっかり持って、「親が笑顔でいること」「子どもへ何よりも愛していると伝えること」そして、「花(成果)を咲かせることだけでなく、丈夫な根っこ(土台)を育ててあげること」を大事にする。そう言うのは、「世界に負けない子に育てる」教育を提唱し、独自の能力育成教材を開発し続けてきた玉井満代先生。
玉井先生の考える子育てと教育について、48回にわたり、さまざまな視点でお届けします。
《教えてくれたのは》
(株)タマイ インベストメント エデュケーションズ
代表取締役 玉井満代さん
京都市生まれ、ICT教材クリエイター・脚本・演出家。20年にわたる全国数百の学習塾での指導経験を生かして、学校、またインド、ベトナム、シンガポール等で続々と導入されている「玉井式 国語的算数教室®」「玉井式 図形の極®」など、パソコン・タブレットを使用して学習する教材を全国展開。2021年現在、日本全国で24,000人が学習しており、有名私立小学校・大手学習塾・幼稚園・保育園及び学童などで広く活用されている。また、インド著書には「世界に出ても負けない子に育てる」(青春出版社)他。国内外での年間講演回数は120回(2018年度)を超える。洛南高等学校附属小学校で「玉井式 図形の極®」が授業カリキュラムとして取り組まれている。また、2021年度より、奈良育英小学校(現 奈良育英グローバル小学校)の副校長に就任。
>> TAMAISHIKIオフィシャルサイト
>> 奈良育英グローバル小学校
– 編集部 −
第36回目のテーマは、「世界を知る、社会を知ることの大切さ」について。
世界を席巻していくと言われるインドの教育について、また世界と比べて日本の若者は社会的関心や自己肯定感が低いという意識調査を踏まえて、玉井先生の教育における「価値観」を教えてもらいました。
インドの学校事情
インドの場合、塾などはほとんどなく学校だけですが、すごく勉強をしています。特に、中高生の勉強量が日本と比べて全く違い、差がついていると思います。
進度から言うと、日本は「数I A」を高校1年生で学びますが、インドでは8、9年生ぐらい(日本の中学3年生くらい)で勉強します。日本では高校で学ぶ内容が、インドでは中学のうちに学ぶこともあり、勉強量も多いです。
小学生の間は、主に発表や自分の考えを述べることに重点が置かれています。ただ、インドの教育における問題点は先生の質がバラバラなところです。その原因のひとつは、まだまだ給料が安いからだと思います。教師の給料が世界一安いと言われているくらいです。実はアメリカでも公立の先生の給料は安く、別のアルバイトをすることが認められています。ベトナムなどもそうで、公立小学校の先生が放課後にクラスの子どもたち向けに塾を開くこともあります。親御さんは「担任の先生が塾を開くなら行かせよう」と、別途お金を払って担任に習うことが許されているんです。
インドも今では給料が上がって、大体1ヶ月3〜5万円ぐらいだと思います。5年前くらいは1万円の人もいました。それでも他の職業に比べると安いほうです。
その代わり、インドの先生は「先生」だけをやれば良くて分業制なんです。例えば、教材を教室に運ぶ人は別にいますし、実験道具の準備をしてくれる人も別にいます。そういった仕事をしてくれる人がいっぱいいるんですね。ですので、先生は「教える」以外の仕事をしなくても良いという点が日本と違うところです。
日本の教員のレベルは世界的に高いと思います。しかし逆に、「勤務時間が長い」「クラブ活動は給料が発生しない」など、先生の働き方の問題が山ほどあります。私は学校の運営もしているのでわかるのですが、テストの丸付けなどは別の人にしてもらってもいいのではと思います。そうすれば、先生の労働時間をもっと短くできるんじゃないかと考えています。もちろん、他の人に任せるより「自分が丸を付けることで子どもたちのつまずきがわかるんです」とおっしゃる先生もいます。しかし、それは丸付けした後でも答案用紙を見れば気づけるので、丸付けだけでも他の人に任せることは良いと考えています。今まさに奈良育英小学校は、それにチャレンジしようと思っています。
学校は本当に忙しいです。しかし、日本の先生は責任感がとても強いので、人に任せることができないのかもしれません。私の知っている範囲ですが、こんなにも自分のクラスに責任を取ろうとしている人たちを見たことがないです。子どもたちの生活面から学力面の問題まで、すべてを一人で解決しようとされるんですね。ですので、その文化を取り払ってあげないといけないと思います。そうでないと、なかなか働き方改革ができないのではないかと思います。
インドの場合は、責任感の有無というよりは、「責任はここまで」といった割り切りがあります。おそらく、他の海外の国々もそうではないかと思います。
インドと日本の今後
インドは、まるで宇宙ロケットのように発展していくと思います。簡単に言えば、国の成長というのは、世界の人が欲しいと思うものをどれだけ作れるかみたいなところがあります。過去の日本が成長してきたのも、ソニーやホンダ、パナソニックなどの企業が、世界の人々が欲しいと思うものを作ってきたからです。そして、人口も増えて1億人にもなる先進国として発展してきました。しかし、今はインドが日本に追いつき追い抜いて、しかも人口が多いという状況です。
インドの教育環境や設備もどんどん整っていくと思いますし、最近ではインド発のオンラインの学習塾が出てきて、世界に展開しているところもあります。あと5年もすれば、世界に展開する企業がたくさん出てくるでしょう。そのうち「インドの教育を日本へ」となるかもしれません。
インドの人はすぐに給料の良い方に移ってしまうので、会社を辞める率が高いと言われています。そんな中でも、私のインドにある会社ではみんな長く働いていてくれます。その理由のひとつとして思い当たるのが、「自分の母親が病気になった時に休みを認めてくれたから」と言われたことがありました。私にとっては当たり前のことでしたが、そのことがきっかけで、この会社で頑張ろうと思ったと言ってくれました。
心が伝われば、ちょっとくらい大変でも頑張ろうと思ってくれるんだなと感じました。インドの人は心が通じますし、議論も好きですし、こちらが一生懸命に伝えれば「なるほど」とわかってくれます。
ですので、日本は外交的にも、もっとインドにアプローチして欲しいと思います。通ずるものがあると思います。玉井式という教材を通じて、インドの子どもたちに日本の心も伝えたいですし、日本への親和性を抱いてもらうようにもアプローチしたいと思います。
どのような価値観を家庭で持たせるか
世界の18歳の意識調査において、「自分は大人だと思う」という人の割合では、各国が8割ほどに達する中、日本は3割弱と圧倒的に少ないです。「自分は責任ある社会の一員だと思う」や「国や社会を変えられる」という意識も、日本は非常に低く、「自分の国に解決したい社会課題がある」というのも半数ほど。その背景でもあるかのように、「家族や友人と社会の課題について議論している」という人が3割くらいなんです。
この状況を変えていかないと、せっかく身につけた学力を生かしきれないと思います。学力を身につけても、それを生かすのはその人の価値観です。18歳になっても、自分を大人だとも、社会的に責任を追っているとも思わず、社会的な課題について議論もできないとなると、その能力をどうやって生かすんですか?という話になります。まずは「世界を知る、社会を知る」のも大事な教育のひとつです。
そういう意味では、インドは子どものうちからそれらを意識せざるを得ない状況です。周りに貧しい子どもたちがいる状況なので、勉強できる子は自分が恵まれていることをわかっています。つまり、学力と共に「何のために?」という「価値感」を身につけていくことが大切なのです。その価値観とは「良い大学に受かりましょう」ということではありません。その価値観を伝えるのは周りの大人の責任になります。
私は先日、奈良育英小学校の保護者に、5つの価値観が小学校の頃から必要だという話をしました。
「なんのために勉強するのか」
「お金に関する価値観」
「身体的な価値観」
「本を読む価値」
「世界を知る価値」
この5つを子どもたちに伝え、子どもたちの意見も聞きながら議論し、学力を伸ばして欲しい。そのように伝えています。
私は「どのような価値観を持つかを家庭で考えてください」と伝えています。どのような価値観を伝えたら、子どもは学力を生かしていけるのか、生き抜いていけるのか、それぞれの家庭で考えて欲しいと思っています。
例えば、「お金に関する価値観」だと、汗水たらして働いて稼ぐことが良いと考えるのか、効率よく稼ぐほうが良いと考えるのかもひとつの価値観です。私の場合は、自分がお金をもらうときには、そのお金に「感謝」というものを乗せてもらいたいと考えています。教材を売るだけでなく、その対価の上に「感謝」を乗せてもらえるような働き方をしようというのが私の価値観です。「ありがとう玉井さん」「玉井式をやって良かった」と喜んでもらうこと、私はそこに「お金に関する価値観」を持っています。
また「身体的な価値観」の場合は、背が高かろうが太っていようが身体的なことがその人の価値とは関係ないということを、小さい頃から伝えて欲しいです。
知識は価値観によって生かされるものです。そのためにも、「現実を話す」努力が大人に必要だと思っています。
私は、小さいうちから世界の情勢や、今社会で起きていることを話したほうが良いと考えています。例えば、世界のあちこちでいろんな民族や国が戦っていて、未だに解決されていないことなどです。そういった世界の状況を伝えていくことによって、子どもたちが自分の未来を考えていけるようにしないといけないと思います。
世界で起きている事実を知って、それをどう考えるかというのは大事なことです。子どもたちに対して「あなたたちの未来をどう考える?」と問い、それを考える力と価値観を身につけて欲しいと思います。
次回の「Vol.37」は4月1日(金)にお届けします。お楽しみに!
関連特集
>>【玉井式教育学V】– Vol.35 – インドの教育が面白い理由①
>>【玉井式教育学V】– Vol.37 – AI時代を生き抜く人材とは