特集
【主体性・創造性・共同性を育む幼児教育アプローチ】幼児教育の専門家に聞く!幼児教育と世界で最も注目されている教育『レッジョ・エミリア・アプローチ』
2021年5月14日
幼児教育に関する奈良県内の様々な取り組みに参画している、畿央大学(広陵町)の永渕准教授にお伺いしました。
※本特集では換気、手指消毒など感染予防を施し取材しています。
《教えてくれたのは》
畿央大学 現代教育学科 准教授
永渕泰一郎(ながぶちたいいちろう)さん
1969年京都府生まれ。幼少期は嵐山付近の自然の中で遊びまわって過ごす。幼稚園教諭となり、保育に携わる中、詰め込み型の教育に違和感を思い、幼児教育について研究する。
なら歴史芸術文化村コミッション委員 、奈良市民間保育所等選考審査選定委員、奈良県就学前教育関係者協議会協議委員などを担う。
幼児教育ってどうして大切なの?
土台になる人格形成がされる時期だから。
これからの時代はAI(人工知能)が搭載された機械の進化で、今まであった仕事が機械にとって変わっていくでしょう。そんな時代に何が好きで何に情熱を持って向き合えるか、チャレンジできる力があるかなど、好奇心や粘り強さといった資質が生きる上で重要になります。このような資質は「非認知能力(※1)」と呼ばれています。その非認知能力を育むのが「遊び」。それが「生きる力」になっていきます。
また、教育現場でもこれから徐々に、少人数で考え合う、グループで意見を出し、結論を導き出していくといったような、アクティブラーニングを取り入れた教育になっていきます。そのアクティブラーニングに必要なのも非認知能力。目には見えにくいこれらの力を幼児期に育んでおくことが強い土台となり、その土台があるからこそ、後々の自ら学ぶ力にも繋がっていくのです。
※1 非認知能力とは…IQや学力テスト、偏差値などのように点数や指標などで明確に認知できるものではないが、子どもの将来や人生を豊かにする一連の能力(目標に向かって頑張る力、自己肯定感、自制心、他者への思いやり、論理的思考など)。
子どもとどのように接すると良いの?
年齢によって他者理解が異なるのを分かって接する。
0~3歳は子どもの意思をただただ受けとめてあげる。
0~2歳は、イヤイヤしてもその気持ちを保育者が受けとめる時期。また、子どもは排泄、食事、睡眠のとき不安になりやすい。安心できる人(親、保育者)の近くにいたがります。遊んでいても、不安になると安心できる人の元にすぐ戻れるとわかっていれば、自由に離れて遊んだり動いたりできるのです。3歳は言われていることはわかるけれど、周り(他者)がどう思うかまではわからない。それは脳がまだ発達していないからです。ですので、3歳くらいまでの子どもに大人の言うことを聞かせようとするのは本来難しいことなのです。言うことを聞かせたとしても、それは怒られて怖いから。そのような接し方をしていると、大人の顔色をうかがい、自己表現を抑え込まれた子どもになります。
4歳頃になると、他者理解、相手の気持ちが分かり始めます。また、周囲から自分がどう見えているのかが分かるようになっていきます。なぜなら子どもたちは、集団生活の中でお互いのトゲトゲ(怒りや我儘)が痛いものだと気付き始めるからです。トゲトゲのぶつかり合いを繰り返しながら、自分で加減をつける自己コントロールができ、折り合いをつける力がついてくるのは5歳を過ぎてから。そのため、自己主張や葛藤、ぶつかり合いが起こる集団の中で、園生活をする意味があるのです。
幼児教育ってどういうもの?
教育の基本は大人が教え込むのではなく、
子どもから「引き出す」もの。
大人の価値観を当てはめない。
子どもの表現を「信じる」こと。
表現(アウトプット)と環境(インプット)が子どもの感性を育てます。
Education(教育)は「引き出す」という意味。環境というのは、子どもの身の周りの全てのもの(モノ・人・コト)です。そして、そばにいる大人が子どもを理解しようとしているかどうか。
例えば、子どもに絵を描いてもらうと描いた絵の周りに丸をたくさん描く子がいます。それは、画用紙に余白が多いと、「ここに何も描かないの?」「○○描いたら?」と大人に言われてきたので、スペースを埋めるために丸を描くようになるのです。また、子どもが人物の絵を描いたときに親や先生が「手がないよ」「体は?」と大人の思い込みでアレやコレやと言う。そうすると求められる絵を描こうとするようになって、自分の素直な表現が出来なくなるのです。それはいわば、人工的に発達させられた絵しか描けなくなること。
子どもが絵を描いたら、まず、そのままの表現を受け入れてあげる。一色しか色を使わなくても、あるいはどんな色を使っても、どんな形であっても、子どもの表現することを信じて愛してあげてください。造形は子どもの心を一番分かってあげられるもの。ありのままを受け入れることが子どもたちの自然な発達を促し、内なる力を引き出していくのです。
イタリアで生まれた教育アプローチ
「レッジョ・エミリア・アプローチ」って?
子どもが何に興味があるのか。
子どもに問いかける教育。
イタリアの北部にあるレッジョ・エミリア市で行われている教育アプローチで、世界的に注目されています。
決められたカリキュラムをこなすことや時間割が一切なく、興味の同じ子どもたち数名が仲間となり、共同で造形を行ったり、個々での興味や夢中になれることを後押しする教育法です。
大人の指示や完成を示して造形をするのではなく、子どもたちの話し合いで「これを作ってみる?」と空想を巡らせ合いながら進めます。大人は、子どもたちの活動を見守り、問いかけながら、新しい発想が生まれるサポートをします。好奇心と粘り強さ(非認知能力)を養うプロジェクト型教育なのです。
環境の中で子どもが育まれるので、この教育法はそれぞれの国の文化に合わせて各国でカスタマイズされています。子どもの内面を引き出すには個人をみてあげること。集団の中で個々が認められ、一人ひとりの権利が大事にされることで、自尊感情が芽生えます。それが、失敗しても乗り越えられる力になっていくのです。
子どもが何か共感していたら気付いてあげて
保育者や親の子どもへの共感が大事。
例えば、ママやパパがケガをして絆創膏を貼っているのを見て、2歳の子どもでも「だいじょうぶ?」と言う。それは共感からではないかと思っています。その共感から優しい気持ちや思いやり、道徳心が育っていくのです。
子どもと接するときに大切にしたいポイント
●共感する。子どもに耳を傾けてよく聴く。
●子どもと語り合う時間を持って、対話をしっかりする。
●言葉をポジティブに変換して伝える(否定的・ネガティブな言葉を使わない)。
●「そんなことしちゃだめ」ではなく認めてあげる。
●すぐに怒らない。罰しない。
●昔の自分(親)や他の子と比べない。
●熱中できそうなもの、好きなものは何かを見てあげる。
もちろん大人だっていつも穏便にはいられないですよね。
子どもをカッと怒りそうになったら、8秒間、子どもをギュッと抱きしめてください。
そうすると落ち着いてきますよ。
永渕先生の講演会が、2021年1月17日(日)に開催されました!
「イタリアのレッジョ・エミリア幼児教育から子どもの意欲や感性の育み方を学ぶ」
レッジョ・エミリア幼児教育はアートを中核とし、「創造」と「共同(協同)」を育む教育法。子どもの気づきをひろい可能性をひろげることが大切。大人は子どもの権利を大切にし、〝可能性への畏敬〟をもって接する。子ども同士、子どもと先生、親、社会や地域といった環境の中で、世界観をどのように創造するか、それは子どもによって違い、変化するものでもある。
子どもには100の可能性があるという。しかし、大きくなるにつれ99が奪われていく。大人の価値観を押し付ける教育によって、頭と体がバラバラにされていくからだ。大人にとって空と大地は離れているもの。科学とアートは相反するもの。しかし、子どもにとってはくっついているもの。そう、大人が分けただけなのだ。子どもはいろんな言葉を持っている。造形、踊り、遊び、表情、態度、沈黙…。だからこそ、大人の関わり方が重要となってくる。子どもの「もしかして!(子どもの仮説)」を広げて、新しい気づきへと導き、未知の可能性を作り出す。そして、子どもを信じること。それが自主性を育み、学ぶ力となっていく。
レッジョ・エミリア市の保育所では、保育者の他に、アトリエリスタ(アーティスト)とペタゴジスタ(学者)がいる。アートの視点、学問的視点が入ることで、子どもの見方が変わる。日本にはないシステムだ。何を感じ考えているのか話し合い、対話することを大切にする。子ども自らがやりたいことを考え、実際にやってみて、どのようにし続けたいのか振り返る。大人は答えを教えるのではなく、その言葉を聴き問いかけていくことが肝心。そして一人ひとりを認める教育を行う。
世界で注目されているレッジョ・エミリア・アプローチ。この教育学は、子どもに耳を傾け、大人自身も学び手であり続けることを伝えている。
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