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【玉井式子育て教室II】– Vol.09 – 自分の考えを伝える力「表現力」

2021年9月3日

【玉井式子育て教室II】– Vol.09 – 自分の考えを伝える力「表現力」

これからの子どもたちは、これまでよりも世界に目を向けなければいけない時代を生きることになります。今のままの教育で良いのか、変わっていかなければいけない点は何なのか。グローバル時代を生きる子どもたちの成長のために、どのような価値観が必要なのでしょうか。
何のために教育するのかという、教育の価値観をしっかり持って、「親が笑顔でいること」「子どもへ何よりも愛していると伝えること」そして、「花(成果)を咲かせることだけでなく、丈夫な根っこ(土台)を育ててあげること」を大事にする。そう言うのは、「世界に負けない子に育てる」教育を提唱し、独自の能力育成教材を開発し続けてきた玉井満代先生。

玉井先生の考える子育てと教育について、48回にわたり、さまざまな視点でお届けします。

(株)タマイ インベストメント エデュケーションズ 玉井満代先生

《教えてくれたのは》
(株)タマイ インベストメント エデュケーションズ
代表取締役 玉井満代さん

京都市生まれ、ICT教材クリエイター・脚本・演出家。20年にわたる全国数百の学習塾での指導経験を生かして、学校、またインド、ベトナム、シンガポール等で続々と導入されている「玉井式 国語的算数教室®」「玉井式 図形の極®」など、パソコン・タブレットを使用して学習する教材を全国展開。2021年現在、日本全国で24,000人が学習しており、有名私立小学校・大手学習塾・幼稚園・保育園及び学童などで広く活用されている。また、インド著書には「世界に出ても負けない子に育てる」(青春出版社)他。国内外での年間講演回数は120回(2018年度)を超える。洛南高等学校附属小学校で「玉井式 図形の極®」が授業カリキュラムとして取り組まれている。また、2021年度より、奈良育英小学校の副校長に就任。

>> TAMAISHIKIオフィシャルサイト
>> 奈良育英小学校

 

– 編集部 −
第9回目のメインテーマは「表現力」。
思いや考えを人にどう伝わるようにするのかというのは、生きていく中で大切なスキルです。
今、教育現場で行われている子どもの「表現」とは、大人が考え決めた表現方法を行うことが多く見られています。
玉井先生の考える本当の「表現力」とは、何なのか、それをどう身につけさせたら良いのかをお伺いしました。

表現の目的とは

表現力がなぜ必要かと言うと「伝える」ことよりも「伝わる」ことが目的だと思うんです。手段としてプレゼンテーションの方法や、こう言ったほうが良い、ああ言ったほうが良というふうに教育的に指導すると、一方的に自分の意見を伝えるといったことになりかねません。

まず、表現を定義すると

プレゼンテーション → 話して表現できる
記述式・小論文 → 書いて表現できる
英語力 → 英語というツールで表現できる
ディベート → 聞いて表現できる
(相手の言ったことを受けとめ咀嚼したうえで、自分の考えを伝える)

表現方法はこれ以外にも、絵を描いて伝えたり、音楽で伝えたりと、いろいろな方法があると思います。絵を描いて自分の気持ちや考えを伝えることが好きで得意だったら、芸術を目指すことも良いでしょう。しかし、一般的に表現力というと、「話す・書く」といった狭義に捉えられているのではないでしょうか。

そこで私はまず、「表現というのは何のためにあるのか」「何をしたいから表現するのか」といった目的を把握することが大切だと考えています。その目的とは「自分の考えを他者に伝えるため、伝わるため」です。その上で、「話して表現」「書いて表現」「芸術や音楽で表現」という表現方法があり、さらにその表現する言語が「○○語」となります。このように、まずはきちんと整理しておかないと「表現力」とは、かなり曖昧なイメージになってしまうのではないでしょうか。
曖昧なまま表現力を育もうとすると、大人が決めたセリフ、大人が決めたマーチングを行う学芸会のように(学芸会が悪いわけではありませんが)、大人の決めたことを上手に表現することが、表現力の向上であるかのように間違って広がってしまうのではないかと危惧しています。

「表現」は手法を学ぶのではなく、
どう考えを伝えるか

「話して表現する」ことにフォーカスするとします。例えばプレゼンなど、わかりやすいとか聴きやすい声のトーンとか、最初に結論から言うとセンセーショナルに伝わるといったテクニックは社会に出ればありますが、子どものうちはそういう技術的なことから入るのではなく、そもそも一人ひとりが持っている個性を引き出すことが大切です。

(株)タマイ インベストメント エデュケーションズ 玉井満代先生

幼少期は、ワー!と言ってみたり、コショコショと小声で言ってみたりと、自分の個性そのままで自由に表現する子どもが多いと思います。それがだんだん、集団生活、社会生活に慣れさせられていくと、こういうことは言ってはいけないんだな、こういう表現のほうがお母さん・お父さんが喜ぶんだな、先生が褒めてくれるんだなという方向になっていき、結果どうなるかというと、何かの発表会のような場面で、みんな一生懸命練習して覚えて発表しているといったことになってしまいます。もっと言うと、大人になってからもプレゼンする場面があると、事前にしっかり覚えて、その順番どおりでないと言えないといった人が多くなってしまっています。途中で質問を挟まれた時には、混乱してしまい何を言ったら良いのかわからなくなる、なんてことも起こります。だから、途中で質問を投げられても最後にしてくださいと返すことになる。もっと酷いことには、質問事項を事前に渡しておく場合もありますよね。

本来、プレゼンテーションというのは、視聴者がその場で聴いた内容からいろんなことを感じ取って、そこで「それはどういうことかな?」と疑問に思ったことをリアルタイムに質問し、それに回答していくことが重要だと思うのです。
そういう意味では、事前に質問を集めるのはナンセンスです。このような日本の表現に対する考え方は、世界では全く標準ではないのです。

 

海外における表現とは

私は、海外で何度もいろんな人たちに自分が開発した教材についてプレゼンしてきました。教材を使ってもらうために、その特長などをどうやらこうやらと話していると、突然質問が飛んでくるんです。
「玉井さん、ちょっと質問良いですか」。「はい、どうぞ」と言うと「玉井さんは天皇制についてはどう思っていますか?」などと聞かれるわけです。
「なぜ天皇制の話?!今は教材の話をしているのに!」といったことがあるのです。

最初は面食らって、困ったものです。実際、天皇制のことはよく聞かれました。女系天皇や女性天皇の問題をどう考えているのか、そもそも日本には女性の天皇がいたことがあるのかなど、日本人として教養を身につけている必要がありますが、それは何も年号を覚えているとか、奈良県に東大寺があって誰が何年に建ててといった知識だけの問題ではなく、日本という国がどういう文化、歴史、価値観の上に成り立っているのか、その中で生まれた教育が我々の国でどう役に立つのか、これからの未来をどう考えてこの教育をしているのかという、私の考えを問われているのです。

どの国に行っても、その製品のことや私の会社のことより、あなたはどういう日本人で、どう考えてこの場にいるのか、あなたの価値観をこの国に取り入れることによって、どのように良いのか、何が得られるのか、あなたの考えを明確にしなさいと問われました。それを日本人的に練習してしまうと、「自分の会社はこんな会社です。私はこんな社長です。こんな教材を作りました。これにはこんな効果があります」といった話になるのですが、そんなことは資料を読んだらわかることなのです。

表現力とは方法論だけを一生懸命に身につけても世界では通用しません。自分自身の考えをそのときの状況に応じて伝えられるようになることが重要なのです。

(株)タマイ インベストメント エデュケーションズ 玉井満代先生

小さい頃から、自由に自分の意見を
表現できる環境を

例えば、読書感想文は本を読んで、自分の考えを書いて表現するものですが、実際は本人の表現というよりは、文法的に合っているか合っていないか、もっとこう書いたほうが良いなどと、大人が認める書き方に書き直させられることも多いのではないでしょうか。そうすると、子どもは自分が書きたいことではなくて、どう書いたら褒められるのかといったことを考えて書くようになってしまいます。倫理的に人道的に反しなければ、自分の感想、表現は本来自由なはずです。

私は、小さい時は自分の考えが表現できれば良いので、書き方などグダグダで良いといつも言っています。「あなたが書きたいように書きなさい」と。そうすると、みんな最初はグダグダした文章だったりするのですが、だんだん自分なりの表現で個性を出し始めるんです。形にこだわりすぎず、大人はもっと待つべきだと思います。

例えば先生の立場だと、どうしても自分が教えている児童がきちんとした形になったものを保護者に披露したいし、保護者もそれを見て成長したと思いたいものです。しかし、それはナンセンスなことではないでしょうか。子どもたちが指導されたものを書いて、それが表現でしょうか?
結局のところ、自分の考えを書く力が培われず、記述式の問題もどう書いたら良いのかわからないということになってしまいます。なぜなら、文法的なことや原稿用紙のルールなどに縛られると、そちらにばかり気を取られ、自分の本来の言いたいことを自由に表現する機会が少なくなってしまうからです。

日本の英語教育はその最たるものです。
以前、ある中学校から一人一台パソコンを使って教育しているので、見に来てくださいと言われ見に行ったことがあります。その日はインド人の先生たちが来るので、みんなで自己紹介しようという企画でした。中学1年生で「I like 〜」という文法を習っていたのでしょう。5人くらいの生徒が「Hello I am ○○. I like soccer and I like 〜」と立て続けに同じような自己紹介をしていました。
何故このような自己紹介になったのでしょう。それは習った単語を使いましょうという企画になっていたようです。しかも「自分の好きなものを言いましょう」と先生から決められていたようで、それだと子どもたちはこのように発表しますよね。いかにも日本的な発表です。
来ていたインド人の先生たちは、後でこっそりと私に驚いたことを伝えてきました。海外の人からすると、自己紹介と言えば、自分の名前と好きなことだけでなく、家族のことや自分の夢や将来はこんな勉強がしたいといったように、一人ひとり自分で考えて違う内容があるものです。自己紹介とは自分のアイデンティティを印象づけるものなのですから。

このように表現力というものを曖昧にせず、子どもたちの教育にしっかりと落とし込まないといけないと思っています。どこの国に行っても自分の考えを表現できるようになるには、小さい頃から自由に表現したことを否定しないで、「なるほど!あなたのそういう考えは良いね」「その表現は素晴らしいよね」と認めていくことが大切です。表現する目的は、自分の考えを伝えることなのですから。

 

表現力を育むために大切にしてほしいこと

もう一つ、表現するときに大切なことがあります。場を見て変えられるようにしていかなければならない。それは、いろんな共感力や分析力も必要だということです。
4技能とよくお伝えしていますが、表現力には、4技能が非常に大事な関わり合いを持っています。それは、「聞ける」から「話せる」、「読んでいる」から「書ける」ということです。

(株)タマイ インベストメント エデュケーションズ 玉井満代先生

人の話をよく聞いていれば、話して表現することができるようになります。ですが、いくら話す表現ができても、書いて表現することは別ですので、たくさん人が書いて表現したものをインプット、つまり多読することが大切になってきます。
このように表現方法が違う場合、何が必要なのかをしっかり落とし込みながら、年齢に合わせて成長させてあげることです。5〜8歳くらいでは、まだまだ多読は難しいものです。にもかかわらず、その年齢で字を書かせて、表現内容ではなく、字が上手下手といったことで点数までつけてしまうと、余計に書くことが嫌いになってしまうこともあると思います。幼少期は一人ひとりの成長に合わせて、まずは「読む」時間をしっかり持ってこそ、大きくなってから「書いて表現」できるようになるのです。まず小学校時代は、読むのが好きで良いのです。

日本語というのは非常に難しい言語で、助詞の「は」と「が」の違いなど、大人でも難しいことがいっぱいあり、そこにとらわれると何が言いたいのかわからなくなるものです。ですので、「書いて表現」できるのは最後で良いくらい慎重に育てていかないといけないことなんです。

子どももいろいろ想像しながら書いているので、最初は文脈も無茶苦茶でバラバラです。でも、あまり細かいことにこだわらず、書いていることをみんな花丸にしてあげてください
大きくなったとき「どう書いたらいいの?」などと聞かれないように、まずは「書くって面白い」「書いて伝えるって楽しい」という気持ちを大切にしながら育ててあげること。本を読むのが好き、書くのが好きであれば、きちんと文法も整っていくものです。

日本には四季があり、感情豊かで表現も「雨」一つとっても何百もあります。「長雨」もあれば「小雨」もあれば「霧雨」もある。感性がすごく豊かになれる環境なのです。五感で感じることもあり、言葉もとてもたくさんあって、いろんなことが表現できる土壌があるにもかかわらず、形を決めてしまうために、自由に表現しづらくなってはいないでしょうか。また逆に、どれほど頭が良くても共感力や分析力に乏しく、行きすぎて多くの人が共感できないような表現をしてしまうことがあるのではないでしょうか。

表現力とは、その時々に応じて自分自身の考えをしっかり伝える力であり、人に対して攻撃的にならないよう言葉を選んで伝えらえる力でもあり、人が生きていく上でとても大切なスキルの一つだと思います。

 

次回の「Vol.10」は9月10日(金)にお届けします。お楽しみに!

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