特集
【玉井式教育学II】– Vol.17– 失敗してもいい、チャレンジすることの大切さ
2021年11月4日
これからの子どもたちは、これまでよりも世界に目を向けなければいけない時代を生きることになります。今のままの教育で良いのか、変わっていかなければいけない点は何なのか。グローバル時代を生きる子どもたちの成長のために、どのような価値観が必要なのでしょうか。
何のために教育するのかという、教育の価値観をしっかり持って、「親が笑顔でいること」「子どもへ何よりも愛していると伝えること」そして、「花(成果)を咲かせることだけでなく、丈夫な根っこ(土台)を育ててあげること」を大事にする。そう言うのは、「世界に負けない子に育てる」教育を提唱し、独自の能力育成教材を開発し続けてきた玉井満代先生。
玉井先生の考える子育てと教育について、48回にわたり、さまざまな視点でお届けします。
《教えてくれたのは》
(株)タマイ インベストメント エデュケーションズ
代表取締役 玉井満代さん
京都市生まれ、ICT教材クリエイター・脚本・演出家。20年にわたる全国数百の学習塾での指導経験を生かして、学校、またインド、ベトナム、シンガポール等で続々と導入されている「玉井式 国語的算数教室®」「玉井式 図形の極®」など、パソコン・タブレットを使用して学習する教材を全国展開。2021年現在、日本全国で24,000人が学習しており、有名私立小学校・大手学習塾・幼稚園・保育園及び学童などで広く活用されている。また、インド著書には「世界に出ても負けない子に育てる」(青春出版社)他。国内外での年間講演回数は120回(2018年度)を超える。洛南高等学校附属小学校で「玉井式 図形の極®」が授業カリキュラムとして取り組まれている。また、2021年度より、奈良育英小学校(現 奈良育英グローバル小学校)の副校長に就任。
>> TAMAISHIKIオフィシャルサイト
>> 奈良育英グローバル小学校
– 編集部 −
第17回目のメインテーマは「失敗をダメなことにしない」教育。
子どもが人生を歩む中で、精一杯頑張り、諦めずにチャレンジができるようになっていくには、周りのどのような言葉が影響するのでしょうか。
失敗を怖れないような心を持つには、親としてどのような意識を持ち、言葉がけをすることが大切か、玉井先生の考えを教えてもらいました。
失敗は子どもの養分に変わる
余程、命に関わるような失敗は止めますが、子どもに「転ばぬ先の杖」を渡してばかりだと、ずっとそれが必要になってしまいます。一般的に親は先に亡くなるわけですから、子どもは自立しなくてはならない。「こうなるだろうな」という目の前の失敗の予測ができても、失敗した後、その失敗が子どもにどう影響するかまでは簡単に予測できるものではありません。もしかすると、その失敗があったからこそチャンスが生まれるかもしれないのです。大人は案外、失敗が本人の養分に変わるというところまでは、イメージできてないものです。
ですので、子ども自身のやりたいことや子どもの思うとおりのことを、「そう思うならやってごらん」と応援して、もし失敗したとしても「今回は残念だったけど、きっと次にできることがあるから大丈夫」と伝えてあげてほしい。たとえ心の中で「うちの子がビリかも…」と思っても、「ビリだからやめなさい」や「上手くいかないからやめなさい」と、下手に止めるようなことはしないでほしいのです。やりたいことは、どんどんさせてあげれば良いし、そこで失敗したり、思いどおりの結果でなかったりしても良いのです。それが子どもの糧になるかもしれないのですから。
奈良育英小学校でも、勉強ができなくて涙をにじませている子を見ると、とても尊いなと思います。涙が出るほど悔しいという、その気持ちが素晴らしいのです。ですので、「わからない」と泣きそうになっていても、「あなたは素晴らしいよ」と伝えます。「わからなくて悔しい気持ちになるのは素敵なことだよ」と。
心からそう思いますし、子どもも「そうか!」と思って頑張るんです。今、答えがわからなくても良いのです。今はわからなくても、次にわかるようになるから大丈夫。それより、頑張っているその姿を褒めてあげてほしい。「頑張るあなたは素敵な人になるよ」と言うと、子どもも自信が持てるものです。チャレンジしていること、頑張っていること、失敗して悔しいと思うあなたは素晴らしいとシンプルに伝えれば、どんどん前に進みます。心配しなくても、子どもは立ち上がりますから。
「失敗を失敗じゃない」と捉えられる声かけをぜひ考えてみてください。「だから言ったじゃない、失敗するって」などと言うと、失敗がダメなことのように思えます。大人になって社会に出ても失敗を恐れないためにも、「失敗はダメなこと」にしない教育が大切だと思います。
失敗を恐れず、歩み続けられるよう
上手に離すこと
私が大好きな曲の中に、「嵐のときほど真っ直ぐ歩け、下を向くな」「歩き続けなさい。あなたは一人じゃない。一人で歩いているんじゃないから」という歌詞があります。私は結局そうだなと思うのですが、子どもたちがある程度大きくなったときに、そのような力を持たせるにはどうしたら良いのか。
これは例えばですが、小さい頃だと、嵐のときは「嵐だよ。出ちゃいけないよ」と親がかばってあげるのも良いでしょう。いきなり嵐の中、「顔をあげて歩きなさい」でなくて良いと思います。でも、そうやって助けているうちに、ちょっといけるかなと思った頃には、親も上手に手を離していくことが大事だと思います。目でずっと見守っていても、手をかけたり声をかけたりするのは我慢する。
「手をかける、声をかける、目をかける」と私は良く言うのですが、恐らく子どものことは死ぬまで気になるでしょうから、子どもが何歳になっても目はかけ続けるでしょう。しかし、手はかけないし、声もかけない。小さいうちは「あ〜だめだめ!」と手をかけ、声もかけるものです。しかし、少しずつ成長に合わせて上手に離していくことが大切です。
最初は手を離します。例えば、自分で洋服のボタンをとめさせたり。上手くとめられないだろうなと思って声をかけますよね。また「時間割りは確認した?忘れ物はない?」「宿題はやったの?」と声をかけますよね。今度は、この声をかけるのを我慢するんです。これはとても辛いことです。しかし、そこを上手に離していった親ほど、子どもが自分で失敗を繰り返していきながら体得するんです。いつまでも子どもに声をかけていたら、思春期にもなれば「うるさいな!」と言われるだけです。目だけは最後までかけてあげてください。それが親の愛情ではないかと思っています。年をとって親のほうがよっぽどヨボヨボしていても子どもを心配しますよね、その気持ちは最後まで置いていただいたら良いと思います。
失敗を隠そうとするのは
人は誰しも失敗するものです。私も毎日が失敗の連続です。しかし、それを自分でどうしたら良いかを考えて、卑下せず「これはチャンスかもしれない」と思える力にするのか、「こんな失敗ばかりして、自分はダメだ」と思うかに分かれていくと思います。
「この失敗が次にどうつながるかをちゃんと考えよう」と社員にも良く言うんですが、合わせて「失敗したらすぐに言ったほうがいい」とも伝えます。すぐに言えば「じゃあどうする?」と次に進められますが、失敗を隠してしまうと、わかったときに言い訳が始まるからです。
日本の教育は、たとえテストで95点を取っても、できなかった5点のマイナスを指摘され、できなかったことに目が向けられがちです。それが価値感になってしまっているので、できない自分が嫌になり、できる自分でなければいけないと思い込んでしまっているかもしれません。上手くいかなくても「失敗しちゃった(笑)」と言えるような環境、社会、教育ではない状況もあるのかもしれません。それがやがて、失敗を恐れて隠蔽して、結果的に大変ことになってしまったような社会問題もあります。失敗を後に持ち越してしまうと、社会的影響が大きい問題になりかねないわけです。
子どもの成長過程で、学校も親も失敗を許さないような環境にしてしまうと、社会人になってもそれが頭のどこかに刷り込まれて、「自分が失敗した」と言えなくなるのではないでしょうか。失敗しても早いうちなら次どうするかを考えられるのに、時間が経てば経つほど大変になるものです。これは子どもにも言えることで、失敗したことを素直に言える環境であれば、「じゃあどうする?」と次につなげてあげられます。
「悪気のない言葉」で
頑張る芽をつまないように
失敗の種類によりますが、チャレンジしたけれど、上手くいかなかった場合は、むしろ褒めるべきことで、精一杯やって至らなかったことの何が悪いの?と思います。
「あなたは精一杯やったのだから何が悪いの?そこで人生が終わるわけじゃないから、また次に行こうよ」と言えば良いだけです。自分の価値を否定されるような悪気のない言葉が、世の中にもいっぱいあり、上手くいかなかいことはダメなことと思わされてしまうのではないかと危惧します。周りの大人や親の悪気のない言葉とは、「もうちょっと頑張ったらできたのに」などです。子どもによっては、失敗するのが怖くてわざと頑張らない子もいる。「頑張ったらできたんだけど、やらなかったんだ」と。頑張ったのに結果につながらないことが怖いからです。口には出さなくても、「やってみてダメだったら、自分がダメなんだ」といった恐怖心があるのだと思います。
しかし、精一杯やってできなかったことを自分で認められることが大切なんです。もちろん、それは怖いことです。ですので、何度も何度も「いい?あなたは精一杯やったんだから、今はそれで良いんだよ。問題はないよ。精一杯やらないことが問題なんだからね」といったことを伝えてあげてください。
きっと本当は、子どもたちもありのままを受け止めてほしいんだと思います。だけど、そうさせない社会があるように思います。それは身近な大人が変えてあげないといけない。「頑張ることに価値がある」と言い続けてあげたいと思っています。その時の努力や、その時にできなかったことではなく、できたことを見てあげる。そして、できなかったときに「あなたのことは大好きだから大丈夫よ」という声がけ。こんな環境を親御さんと学校でタッグを組んでつくっていきたいですね。
次回の「Vol.18」は11月12日(金)にお届けします。お楽しみに!
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