特集
【玉井式教育学V】– Vol.32 – 生きる上で必要な「コミュニケーション力」とは
2022年2月25日
これからの子どもたちは、これまでよりも世界に目を向けなければいけない時代を生きることになります。今のままの教育で良いのか、変わっていかなければいけない点は何なのか。グローバル時代を生きる子どもたちの成長のために、どのような価値観が必要なのでしょうか。
何のために教育するのかという、教育の価値観をしっかり持って、「親が笑顔でいること」「子どもへ何よりも愛していると伝えること」そして、「花(成果)を咲かせることだけでなく、丈夫な根っこ(土台)を育ててあげること」を大事にする。そう言うのは、「世界に負けない子に育てる」教育を提唱し、独自の能力育成教材を開発し続けてきた玉井満代先生。
玉井先生の考える子育てと教育について、48回にわたり、さまざまな視点でお届けします。
《教えてくれたのは》
(株)タマイ インベストメント エデュケーションズ
代表取締役 玉井満代さん
京都市生まれ、ICT教材クリエイター・脚本・演出家。20年にわたる全国数百の学習塾での指導経験を生かして、学校、またインド、ベトナム、シンガポール等で続々と導入されている「玉井式 国語的算数教室®」「玉井式 図形の極®」など、パソコン・タブレットを使用して学習する教材を全国展開。2021年現在、日本全国で24,000人が学習しており、有名私立小学校・大手学習塾・幼稚園・保育園及び学童などで広く活用されている。また、インド著書には「世界に出ても負けない子に育てる」(青春出版社)他。国内外での年間講演回数は120回(2018年度)を超える。洛南高等学校附属小学校で「玉井式 図形の極®」が授業カリキュラムとして取り組まれている。また、2021年度より、奈良育英小学校(現 奈良育英グローバル小学校)の副校長に就任。
>> TAMAISHIKIオフィシャルサイト
>> 奈良育英グローバル小学校
– 編集部 −
第32回目のテーマは、社会性の一つとして育みたい「コミュニケーション力」。
多くの人がイメージする「明るく、友達が多い」からといってコミュニケーション力がある、というわけではありません。生きていく上で何が必要で、真のコミュニケーションとは相手に対してどのような意識で関わることが大切なのか。
玉井先生が考える「コミュニケーション力」について、お話しいただきました。
「コミュニケーション力」と
「プレゼンテーション力」との違いとは。
人間は社会性のある動物なのでコミュニケーションは必要不可欠です。ただ、必ず明るくてポジティブなコミュニケーション力だけが必要かというとそうではありません。とはいえ、あまり閉じこもりすぎると自分をわかってもらえないし、人のこともわかろうとしないと生きづらいかもしれません。なぜなら、本当の意味で自分一人だけで生きていくことは難しいからです。ですので、コミュニケーション力は「生きていくために必要不可欠な力」になると思います。
コミュニケーション力とは、たくさんの人に好かれるために必要というわけではありません。そこは説明が難しいのですが、社会に出ればビジネスなどにおいても、好き嫌いではなく、さまざまなことを話し合ったり、議論したり、理解し合ったりする場面が多分に出てきます。
プレゼンテーション力について、以前「Vol.27 奈良育英小学校特集③ プレゼンテーション」でお伝えさせていただきましたが、コミュニケーション力と違う点は、コミュニケーションは双方向型なのに対し、プレゼンテーションは、自分が持っているテーマをまず理解してもらうためにあるものです。そのため、コミュニケーション力があるからといって、プレゼンテーション力があるかと言ったら、また別の話になるのです。
例えば、ある営業マンは商品説明がとても上手で納得できるけれど、個別にコミュニケーションをとったら合わないなって思う人がいるかもしれません。
コミュニケーションもプレゼンテーションも表現をするという点は一緒なんですが、能力的には別なのかなと思っています。
相手を理解しようとし、
寄り添えるかどうか。
「コミュニケーション力」で一番必要なのは「相手を理解し共感する」ことです。共感できないことでも、共感できるところを探す癖を持てると生きやすいのかなと思います。明らかに間違っていることだと、とても共感できないかもしれませんが、そんな時でも「共感は全くできないけれど、何故この人はそんなことをしたのだろう」と思いを馳せ、自分なりに考えられるかどうかによっても、コミュニケーション力は違ってくると思います。
例えば、弁護士という仕事において、コミュニケーション力は必要不可欠な力だと思うんです。
法律という決まったものがありますが、この先 AIがさらに発展すると、「こういうケースはこう」だとAIが分析すると思います。実際にアメリカではかなり開発が進んでいて、過去の膨大な判例データをAIに認識させ分析しています。いくら優秀な人でも全部の判例を頭に入れておくことはできませんよね。
そういった中で、法律をたくさん知っていることが大事なのではなく、依頼人にいかに共感して最善策を出せるかどうかが人間の役割になってきます。伝え方、聞き取り方など依頼人に寄り添って弁護できているかどうかが、この仕事の重要な能力になってくると思います。
私の会社にも3人の顧問弁護士がいまして、IT専門、経営専門、契約書類を整える専門なのですが、3人ともコミュニケーション能力が大変高いんです。今まで、たくさんの弁護士さんを探してきましたが、今顧問をしてくれているこの3人の共通点は何だろうと思ったら、喋っていて嫌な気にならないんです。難しい問題があっても上手に伝えてくれる。こちらの想いにも共感してくれる。このように選ばれていく人はコミュニケーション力が高い方だろうなと思いました。
コミュニケーション力の形を決めつけない。
人間はロボットではないので、人それぞれ個性があります。
学校の休憩時間など、一人で本を読んでいても良いわけです。みんなで仲良く外に出て遊ばなければいけないとか、そういうことではありません。子ども一人ひとりの個性で自然にやっていけるようにするべきだと思っています。ただ、これは私たち教育者側の課題でもあります。
保護者の方によく、「他の子どもたちが一緒に歩いていて、うち子だけが一人ぽつんと歩いていたりするんです」と心配されることがあります。明らかに意地悪されているのは良くないですが、そうではなく、一人であちこち見ながら自分のペースで歩きたい子もいると思います。大人が「友達がいっぱいいるほうが良い」と決めつけないことが大切です。意地悪されているわけでなければ、一人でお弁当を食べていても、一人で本を読んでいても別に良いと思います。要は子どもたちが自然体でいられるような安心安全な場所を作るのが、私たちの大人の役割だと思います。
「昼休みはみんなでこうしましょう」とか「大きな声で挨拶をして教室に入りましょう」など大人が形を決めてしまうと、子どもによっては「それは自分の自然体じゃない」という場合があります。最低限のルールはもちろん教えますが、「こうすることが良い」といった大人の思い込みがあるのではないかと思います。
「友達を作らなきゃ」というところから入るのではなくて、「周りの人に親切にしよう」とか「誰かが活躍していたら褒めてあげよう」とか「自分を大切にしよう」といったことが、自然体で居心地よくいられるポイントではないかと思います。
コミュニケーション力といったものに決まった形や理想像はないと思います。「明るくてたくさん喋れて、友達がたくさんいる」ことだけがコミュニケーション力ではありません。特に成長過程ですから、別に一人で本を読んでいても良いですし、一緒にいるお友達がその時々で変わっていても全く問題ないのです。
子どもによっては、いじめられているなど、辛いことを言いづらい場合もあると思います。それは自分のプライドも傷つくし、お母さんお父さんに心配をかけたくないという思いもあると思います。それについては、普段から子どもが言いやすい環境にしておくことが大切です。例えば、「あなたの周りに悪い子はいないと思うけれど、誰だってイライラして意地悪なことを言ったり、したりしてしまう時もあるから、もし嫌なことがあったら言ってね」と伝えておく。そして、もし子どもが悲しいことがあったと伝えてきたら「そうなんだね」と、ちゃんと共感しながら聞いてあげる。「何があってもお母さん、お父さんはあなたの味方だから、何かあったら必ずあなたを守るからね」と伝えてあげると良いと思います。
このように、家庭で子どもが言いやすい環境を作っていくことも大切だと思います。
また一方、奈良育英小学校では、子ども同士で時々小競り合いがありますが、自然に解決していることが多々あります。性格的にすごくしっかりした子もいれば、受け身な子もいますので、その間をとりもてる子がクラスにたまたまいれば、自然解決になっていくこともあります。事が大きくならないよう大人が介入して手立てを打つことも場合によっては必要ですが、子どもを信頼して、子ども同士で解決するのを見守ることも、コミュニケーション力を育む上で大事だとも思います。
次回の「Vol.33」は3月4日(金)にお届けします。お楽しみに!
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